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原発事故は日本を変えた

世界の観測史上で4番目に大きく、
国内観測史上最大の
マグニチュード(M)9.を記録した
3月11日の東日本大震災。

地震後に襲来した大津波は多くの尊い命を奪い去り、
街を、建物をのみ込んだ。
原発事故と震災が同時に起きた。


〝原発震災〟の恐ろしさもまざまざと見せつけ、
東京電力・福島第一原子力発電所の事故は、
1986年に起きた
人類史上最悪の
旧ソ連・チェルノブイリ原発事故に匹敵する
「レベル7=深刻な事故」
として
歴史に刻まれることになった。



3月11
日午後2時46分。
東北地方を中心とする広い地域で巨大地震が発生した。

震度6強の揺れに見舞われた福島第一原発では、
運転中だった1~3号機は自動停止し
(4~6号機は定期点検中)、
燃料が核分裂を繰り返す「臨界」状態は制御棒の作動によって止められたものの、
地震で主電源が止まり、その後の津波で非常用電源を含むすべ
ての電源を喪失した。

全電源の喪失―。
それは大量の放射性物質が放出されるという
悪夢の原発クライシスの始まりだった。



全電源が絶たれるということは、
原子炉を冷やす機能が失われることを意味する。


午後3時
42分には1、2号機の緊急炉心冷却システム(ECCS)が作動を停止し、
注水不能に。高温の崩壊熱を冷却するシステムが相次いで動かなくなり、
燃料が溶融する非常事態に陥った。

午後7時3分、政府は日本初の「原子力緊急事態宣言」を発令した。

大惨事となったチェルノブイリ原発事故でも、
79年の米国・スリーマイル島原発事故でも全電源が失われることはなかった。
世界が初めて直面した危機といっても過言ではないだろう。



京都大学原子炉実験所の小出裕章助教はこう話す。

外部電源と呼ばれる送電線などが
地震によって倒れてしまい、
最後の頼みの非常用ディーゼル発電機まで津波によって奪われました。
地震で止まることはそれなりに考えられていたと思いますが、
最悪だったのは津波が重なったことです。 


電源喪失から約6時間後。
通常なら燃料棒の上に約5㍍あるはずの水位が、
1号機の圧
力容器では、すでに燃料棒の上45㌢まで低下していた。

水位は翌12
日午前6時47分から急降下し、
昼過ぎには燃料棒の半分近くが露出した。
燃料棒が露出すると、水素が発生する。

大量の水素が原子炉建屋に充満し、
午後3時
36分、ついに水素爆発が起き、建屋上半分が吹き飛んだ。


外部電源を復旧することができない間、追い打ちをかけるように爆発が相次いだ。
14日午前11時1分に3号機で水素爆発、
15
日には午前6時10分に2号機地下で水素爆発と思われる爆発が発生。

その約10
分前には、定期点検で休止中の4号機でも
使用済み燃料プールで水素爆発と思われる爆発があり、火災が起きていた。


元内閣府原子力安全委員会専門委員で、早くから原発の地震・津波対策の
強化を訴え続けてきた中部大学の武田邦彦教授が説明する。

「水素爆発とは水素が酸素と結合して爆発すること。
ちなみに水蒸気爆発とは、水の温度が突然上かって爆発することを指します。

今回の事故では水素爆発が起きましたが、今後の可能性としては、
メルトダウン(炉心溶融)によって水蒸気爆発もあり得ます」


緊急時における原子炉の安全対策の3原則は
「止める」「冷やす」「(放射性物質を)閉じ込める」である。

しかし、今回の原発震災では、原子炉を「止める」ことはできたが、
地震と津波による全電源喪失がトリガーとなり、
「冷やす」と「閉じ込める」機能を失い、
放射能汚染、周辺住民の避難という重大な事態を招いたのである。


炉心の燃料は運転停止後も放射性物質の崩壊で発熱しており、冷やし続けなければ、
燃料を覆う被覆管が破損して放射性物質が漏れる危険な状態になりかねない。
2800度になると燃料が溶け出すメルトダウンが起きるとされる。
もしも、その溶け落ちた高熱の燃料が下部の水に触れ、水の温度が急激に上昇して
大規模な水蒸気爆発が発生したら……。


小出助教が危惧する。
「私が恐れている最悪のシナリオは、原子炉がメルトダウンして
水蒸気爆発が起きることです。1基でも水蒸気爆発を起こせば、
発電所の敷地の中に作業貝がとどまることはできない。


今はかろうじて原子炉に水を送り込んで冷やしているわけですが、
この注水作業もできなくなる。つまり、複数の原子炉でメルトダウンが連鎖していく。

このシナリオが現実のものとなれば、チェルノブイリ事故の10倍に上る
大量の放射性物質をまき散らすことになる
とみています」

東日本大震災から1ヵ月が過ぎた4月12
日。
経済産業省原子力安全・保安院は、福島第一原発事故について、
国際原子力事象評価尺度(INES)を
最悪の「レベル7」
引き上げると発表した。

 

事故後に放出された放射性物質の量が
推定で
37万~63万テラ・ベクレル(テラは1兆倍)となり、
「レベル7」の基準である数万テラ・ベクレル以上に達したのがその根拠だ。


国内外から「10
日間で約520万テラ・ベクレルもの放射性物質が
大気中に放出されたチェルノブイリ事故と同じ『レベル7』は、
おかしくないか」という声もあったが、
福島第一原発事故は現在進行中であり、収束のめどさえもも立っていない。


武田教授も小出助教も、
「今後、チェルノブイリを超えていく可能性は十分ある」と指摘する。

また、武田教授は「チェルノブイリ事故と大きく異なる点は、
海に直接、放射性物質が放出されたということです」と、
福島第一原発事故の深刻さを強調する。


放射性物質を含む大量の汚染水が、海洋生物や環境に
今後どれほどの影響を及ぼすのかも心配だ。

なお、
INESの基準は、海への汚染水流出は想定していないとされる。


政府や東電は「想定外」を繰り返しているが、東日本大震災が起きる前から、
想定以上の津波が起きる可能性は専門家の間でも指摘されていた。



実際、産業技術総合研究所の研究者が
2009年、福島第一原発の想定津波を、
海岸から陸地3キロ程度まで浸水した869年の「貞観津波」の大きさで
反映するよう見直しを迫っていたが、
東電と原子力安全・保安院は今後の検討課題として先送りしていたのである。
この意味では、「人災」の側面も否めないのではないか。


世界有数の地震大国である日本には現在、54基の商業用原発がある。
そのすべてが、津波に襲われる可能性のある海沿いに立っている。
もう二度と「想定外」という言葉は許されない。





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